Introduction
今回の個展ではメタモルフォーゼをテーマに蝶々のように生まれ変わっていく感情や心を描き写した作品を展示します。多くの作品は御伽噺を題材にしていますが、私の絵の中の主人公は従来のような性別や人種、地位による設定や運命に縛られず美しく変化します。これらの絵は、窮屈な世界に閉じこもっていた私が絵を描き始めて自由になれた経験をもとにしていて、オーディエンスも自分自身を絵の中に投影し、抑圧から抜け出せるような物語になっています。誰もが自分自身の物語の中で蝶の魔法みたいに自由に変身できることを願って制作しました。
“白雪姫 / Snow White”
2021, 38 x 45.5cm, colored pencils on panel
白雪姫は元来、毒林檎を食べさせられて、王子の助けを待つ受動的な存在です。白雪姫の運命は女性であるが故の不公平なものなのに、疑問を持たれず童話として受け継がれてきました。しかし白雪姫の運命に不満を持った私が作り変えたお伽話の中で、白雪姫は人種や性別、地位にとらわれず、毒林檎を投げ捨て自ら人生を変える力を持っています。また、この絵の中の白雪姫は、白雪のような白という周りから決められた色に縛られずにカラフルで、白と黒や正義と悪の二極に分けられたつまらない世界を色鮮やかに塗りかえる能動的な主人公です。
“銀河鉄道の夜 / Campanella”
2021, 45.5 x 53cm, colored pencils on panel
私が日常を過ごしている傍らで、知らない誰かが自死を選んだと知ると自分の非力さを痛感します。私はその誰かの悲しみ、苦しみや決意を知ることもできないまま関わることも出来ず、ただ駅のアナウンスやテレビのニュースでその人の死だけを知るのです。無力な私は何も出来なかったけれど、せめて勇気ある決断をした彼らに供える菊の花のような絵を描きたいと思いました。勇敢にも線路へ飛んだ彼らは今はもう辛い思いなどせずに美しい銀河鉄道に乗っていると私は信じています。夜に走る銀河鉄道は死を乗り越えた様々な生き物たちを乗せ、空を駆け、輝く天の川を渡ります。私の描いた菊の花はお彼岸に届きはしないけれど、枯れることなくずっとこの絵の中で咲き続けます。
“勿忘草 / Forget-me-not”
2019, 60 x 45cm, mixed media on canvas
私の祖父との思い出は心の温まるものばかりです。物知りで、頑固で意地悪だけれど、孫に甘い祖父が好きでした。そんな祖父も時と共に老いて、認知症を患いました。だんだん薄れていく祖父の中の私の記憶をどうにか引き出そうと、私は一緒に行った動物園や、一緒に出た運動会を覚えているか尋ねましたが、返事はどんどん曖昧になっていくばかりでした。その返事を聞くことを恐れた私はただ隣にすわっていました。そしてついに、祖父はお前はだれだと私に尋ねるようになりました。私の中の祖父はずっとあのときのまま変わらないのに、祖父の中に私はもう生きていないのでした。祖父の中の私が忘れさられても、私はこの記憶を絵に残してずっと愛しい思い出と共にいることに決めました